バルセロナ「Bicing」潜入リポート!
人とまちをつなぐコミュニケーションツール。
金沢レンタサイクルまちのり。
本日の日曜ブログは、スペイン・バルセロナの「Bicing」(ビシング)についての特別レポートです。
わたくし、先月はじめに休暇をいただき、スペイン・バルセロナに行ってまいりました。そこで大々的に展開されている自転車シェアリングサービス「Bicing」 。2007年にバルセロナ市が導入した「公共交通」であり、その規模は自転車6,000台、ラック数11,000箇所、ステーション420箇所。コンパクトな都市であるバルセロナ市内一円に高密度にステーションが配置されており、世界トップレベルの利用率を誇っています。
今回、バルセロナ視察を企画してくださったO美野さん、そしてバルセロナで活躍する建築家でありプランナーの吉村有司さんのおかげで、この「Bicing」を運営するクリアチャネル社の事務所でもお話をうかがうことができました。感謝感激です!!
本日のブログでは、これらの内容を特別に少しだけご紹介。いつもながらちょっと長いですが、写真ベースでさらりといきますので、最後までご覧ください♪
▼バルセロナといえば、ガウディ建築。中でも有名なサグラダ・ファミリア。2009年以来の再会に感激!
▼カサ・ミラ&カサ・バトリョ。いずれも築100年を超える世界遺産。これらもガウディの作品。
▼素敵なバルセロナの街に映える赤色の自転車が「Bicing」。利用するためにはマイナンバーと市内住所が必要なため、観光客は利用できません。それでも1日3~5万回の利用があり、以前ご紹介した台湾・台北市の「YouBike」と並んで世界トップクラスの利用率となっています。
▼鉄道やメトロ(地下鉄)、トラム(路面電車)との接続にも配慮してステーションが配置されています。
▼ステーションの端末機には、周辺のステーションがしっかりと示されており、満車や空車の際に最寄ポートを利用してもらう工夫がなされています。
▼メトロのホームにある案内サインや、駅周辺部の地図にもきちんと「Bicing」のステーションが記載されています。一見簡単で当たり前のことですが、このような複数事業者の連携や日本では意外とうまくいっていません。学ぶべきことが多くあります。
▼まちなかを歩いていると、そこらじゅうで利用者を見かけます。
▼満車のステーションでは、空きができるまで待つ姿も。
▼このサービスを運営するのは、世界的な広告会社であるクリアチャネル社。そのサービスセンターで、マネージャーである女性の方のお話をうかがうことができました。
▼スペイン語で自転車のことを「Bicicleta」と呼ぶこと、またバルセロナのことを「BCN」と書くことから、「Bicing」という名称になったようです。普段は部外者立ち入り禁止のサービスセンター内部も見学させていただくことができ、工夫点や苦労点をたくさんお聞きすることができました。
▼このようなメンテナンス工場が2箇所あり、1箇所あたり4名のスタッフが自転車のメンテナンスを行っています。2007年から約9年が経過してますが、フレームはそのままで部品を交換しながら自転車を使い続けているとのこと。
▼自転車の偏りを平準化するための再配置は、このようなキャリアー付きのトラックが最大24台稼働しているとのこと。サービス規模はわれらが「まちのり」の20倍超。サービスレベルを大きく左右する再配置作業の大変さは想像を絶します。
▼こちらは、なんと電動アシスト自転車を使用した「Bicing」の新サービス。ラックに挿入するだけで充電が可能となっています。パイロットプロジェクトといいつつ、その規模は電動アシスト自転車300台、ステーション46箇所。この規模でテストケース・・・おそるべし!
▼こちらも電動アシストタイプ。なんと地下駐車場の中にもこのようなステーションが設けられています。というのも、「Bicing」の実施主体は、市営駐車場や駐輪場などの管理運営を市より委託されているBSMという会社。クルマの駐車料金を自転車シェアリングサービスに還元するという素晴らしい事業スキームを構築しています。
「Bicing」 の舞台裏にも触れることができ、極めて貴重な経験をさせていただくことができました。中でも、次の2つのポイントは、わが国の公共交通体系にもぜひ反映すべきものだと感じています。
1つめのポイントは、「公設民営の事業スキーム」です。
「Bicing」の事業主体はバルセロナ市であり、あくまでも「公共交通」のひとつとして自転車シェアリングを導入しています。その実施主体はBSM社で、駐車場収入や利用料金収入、市からの委託費などを原資として事業を実施しています。そして、BSMからの委託を受けている運営主体がクリアチャネル社。自転車や機器類はクリアチャネル社の財産であり、ユーザーに提供すべきサービスレベルが契約事項に明記されているとのことでした。
このように、自治体がしっかりとした意思に基づいて導入を決断し、事業を安定的に実施していくために高い公共性を有する会社を実施主体に置き、そのもとでパブリックマインドを有する有能な事業者に運営主体を任せるという三段構成は、わが国でも適用できるスキームなのではないかと感じます。
「まちのり」もこれに近い公設民営のスキームとなっていますが、大きく異なるのは”実施主体”の存在感です。まちのり事務局には駐車場収入のような安定的な財源がないことから、今後、BSMのように公共性が高く体力のある実施主体に育てていく必要があるように感じます。
2つめのポイントは、「ユーザーファーストの精神」です。
バルセロナ市内では、鉄道、地下鉄、トラム、バス、自転車(Bicing)といった多様な公共交通網が形成されています。この点については日本の各都市でも充実しているところはたくさんあります。
しかし、わが国との最大の違いは、多様な公共交通サービスが統合的に提供されていることです。上述のとおり、地下鉄の案内の中にバス停や自転車シェアリングサービスの記載がきちんとされており、交通事業者の垣根を超えて、とにかく利用者にとってわかりやすい工夫が随所になされています。
統合的にサービスを提供するのはなぜ?という問いに対して、各交通事業者はこのように応えました。
「人々の幸せのため」
クリアチャネル社のほか、メトロ、トラム、バスを運営するTMB社にもヒアリングを行いましたが、共通の理念として「happiness」というキーワードが示されており、これには共感、というよりも深く感動しました。
『公共交通サービスは、それ自体が目的なのではなく、様々なアクティビティを支え、人々が幸せになることこそが目的なのである。』
このシンプルな理念を行政や各事業者が共有し、日々工夫しながら実践している。それがバルセロナの素晴らしさです。
わが国でも統合的なサービスの重要性は長年にわたって指摘されていますが、事業者側からすると、社会制度的に難しい面があるのも事実。そろそろ、バルセロナをはじめとする欧州諸都市の好例に学び、変革していく必要があるように感じます。
「まちのり」も、いつかは「Bicing」のような真の公共交通として機能することを夢見て、これからも日々頑張っていきたいと思います。
次回は、バルセロナの自転車通行空間についてご紹介したいと思います。これまたなかなか刺激的な内容です。お楽しみに!
ではまた。
追伸)
バルセロナ視察参加メンバーは以下の通りです(50音順)。上述の内容は、メンバー間での議論を踏まえて記載しており、僕個人だけのアイデアや見解ではありません。メンバーの皆様に心から感謝致します。
なお、NPO法人自転車活用推進研究会主催のミーティングにおいて、4月22日にバルセロナ視察報告会を開催しました。youtubeでご覧いただけますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
バルセロナにおける総合的な都市交通戦略~なぜモビリティは必要なのか?~
▼バルセロナ調査プロジェクトチーム
井上学(平安女学院大学)
小美野智紀(㈱ドーコン)
片岸将広(㈱日本海コンサルタント)
杉山奈津子
鈴木文彦(交通ジャーナリスト)
髙島亮太(らくもび)
辻寛(大阪大学)
辻堂史子(㈱シティ・プランニング)
中野竜(㈱コトブキ)